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東京地方裁判所 昭和43年(行ウ)229号の1 判決

原告 株式会社斎藤満平商店

被告 麹町税務署長

訴訟代理人 広木重喜 外三名

主文

被告が昭和四三年五月二九日付で原告に対してなした原告の昭和三九年九月一日から昭和四〇年八月三一日までの事業年度の法人税更正処分のうち一六万二、〇〇〇円を越える部分および過少申告加算税の賦課決定を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一、当事者の申立て

(原告)

主文と同旨の判決

(被告)

「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決

第二、請求の原因

一、原告は、医薬品の卸・小売および店舗の貸付等を業とする会社であるが、昭和三九年九月一日から昭和四〇年八月三一日までの事業年度の法人税につき、所得金額五一万六、八〇〇円、法人税額一六万〇、二〇〇円と確定申告したところ、被告は、中山隆三、高橋新市、都竹鐘次、片山巨、小早川クニヨの五名の者に支給された賞与が役員賞与であるとしてその損金算入を否認し、昭和四三年五月二九日付で、右所得金額を二一四万七、〇〇〇円、税額を六六万五、五〇〇円と更正し、あわせて、過少申告加算税二万五、二〇〇円の賦課決定をした。

二、しかし、右中山ら五名の者は、当時会社の役員ではあつたが、昭和三九年九月一四日東京地方裁判所昭和三九年(ヨ)第二、〇四〇号仮処分決定によりその職務執行を停止され、昭和四二年二月一八日同決定が取り消されるまでの間、代行者大津民蔵、山口鉄四郎、香田俊雄ら監督のもとに、中山は丸ビル小売部、高橋は銀座店、都竹は貿易部、片山は帝国ホテル店、小早川は本店経理部の各責任者として営業事務に従事していたにすぎないものであつて、その各業務の執行に対して支払われた前記賞与は、使用入賞与であつて、役員賞与でないこと明らかであるから、本件更正および賦課決定は、違法たるを免かれない。

第三、被告の答弁

原告主張の請求原因事実中、中山ら五名の者が原告会社の使用人として会社の営業に従事していたことは否認、その余の主張事実はすべて認める。

法人税法二条一五号および同法施行令七条一号の規定する「法人の経営に従事している者」とは、単に形式上、商法の規定に基づき取締役等として選任された者であるかどうかによつて定まるものではなく、実質上、法人の事業運営方針の決定とその実現方に参画する者であるかどうか、さらにいいかえれば、当該賞与が、会社の益金処分として、支払われたか、それとも、必要経費として支払われたかという税法的観点によつて決められるべきものである。そして、前記職務代行者らは、いずれも弁護士であつて、原告会社に常駐することもなく、小切手への押印、従業員の採否、ボーナス率の決定等を行なうにとどまり、会社の経営は、挙げて各現場の責任たる前記中山らに一任され、とくに商品の販売面については、同人らが、いずれも原告会社の大株主で、しかも、薬品に関する特殊の知識経験を有するものであるところから、職務代行者の指揮命令を受けることなく、各自の責任においてその運営方針を決定しかつこれを実行していたのである。したがつて、右中山ら五名の者は、前記仮処分中といえども、法人税法上「法人の経営に従事」する「役員」に該当するものであるといわなければならない。

また、仮りに、右中山ら五名の者が職制上使用人としての地位のみを有するにとどまるものであるとしても、同人らは、原告会社が同族会社であることの判定の基礎となる株主であるから、この意味において、法人税法上の役員であることには変わりはない。

それ故、以上いずれの理由からみても、本件更正および賦課決定は、適法たるを失わない。

第四、証拠関係〈省略〉

理由

被告が、原告会社の昭和四〇年八月期の法人税の確定申告につき、中山隆三、高橋新市、都竹鐘次、片山巨および小早川クニヨの五名に支給された賞与は役員賞与であるとして、その損金算入を否認し、本件更正および賦課決定に及んだこと、右中山ら五名の者は、原告会社の取締役で、中山は丸ビル小売部、高橋は銀座店、都竹は貿易部、片山は帝国ホテル店、小早川は本店経理部の各責任者であつたが、昭和三九年九月一四日東京地方裁判所の仮処分決定によりその職務執行を停止され、代行者として、大津民蔵、山口鉄四郎、香田俊雄が選任されたことは、いずれも、当事者間に争いがない。しかして、〈証拠省略〉の結果によれば、次の事実を認めることができる。すなわち、原告会社は、昭和一三年一〇月薬品、化粧品、衛生雑貨の販売、輸入等を目的として(この点は、当事者間に争いがない。)設立された株式会社であるが、前記小早川を除く四名の者は、いずれも、会社設立以前斉藤実が「斉藤満平薬局」なる商号で右の営業を営んでいた当時から勤務し、会社設立と同時に前叙のごとくその役員に就任し、社長の実死亡後、代表取締役となつた未亡人た満をたすけ、毎月実の命日に相当する三日に仏前で役員会を開くなどして鋭意会社の経営に協力し、昭和三四年一月二六日た満死亡後は、親戚の協議によつて会社の所有、経営を委譲されるようになつたが、親戚の一人である川口次郎との間に紛争が生じ、同人の申請に基づき前叙のごとく職務執行停止の仮処分を受けるにいたつたものであること、そして、職務執行停止の期間中、会社の常務に関する意思表示はもとより医薬品の仕入れ・輸入等の金額の大枠、小切手の発行、従業員等の給料、昇給、賞与の決定等は、代表取締役職務代行者において掌握していたとはいえ、具体的な商品の仕入れ、輸入、販売等に関しては、特殊の知識経験を必要とするところから、前記五名の者が、従前と同様、各事業場の責任者として、それぞれ、計画の立案・執行に当つていたこと、しかし、他面、毎期の賞与に関する限り、右五名の者に支給される分も、一般従業員に支給されるものと同様、代表取締役職務代行者の決裁のもとに、給与額の一一七パーセントに勤続三か年を基準とし、一年を増すごとに二パーセントを加算する方法によつて算定され、右の算定方式は、前記実又はた満在命中より続けられてきたものであつて、他に同人らに対し役員であるということから特別の賞与・手当等が支給された事実はないことを認めることができ、右認定の妨げとなる証拠はない。

以上認定の諸事実に基づいて判断するのに、前記中山ら五名の者は、従前より原告会社の役員であると同時に従業員たる地位をも併わせ有するものであつて、役員としての職務の執行が停止されていた期間中といえども、形式的にはともかくも、実質的には、「法人の経営」に従事し、名実ともに法人税法上の「役員」たる地位を保有していたものというべきではあるが、同人らに対する賞与に関する限り、それが直接会社の利益の多寡によつて決定されることなく、一般従業員に対すると同様、給与額を基礎として算定支給されたものである以上、他にこれをいわゆる「隠れたる利益処分」と認めるに足る主張・立証のない本件にあつては、支給の名目如何にかかわらず、同人らの従業員たる地位ないしその業務の執行に対して支給されたものであつて、会社の事業収益を得るための費用として損金に算入されるべき使用人賞与であり、利益処分と目すべき役員賞与ではない、というべきである。

されば、前記五名の者は対する賞与を役員賞与と認め、その損金算入を否認して行なわれた本件更正および賦課決定は、違法たるを免かれず、その取消しを求める原告の請求は、理由があるのでこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき行訴法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 渡部吉隆 園部逸夫 渡辺昭)

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